
水野家は徳川家康の生母
伝通院(於方・お大の方)の生家である。
清和源氏の血を引き、当初は緒川姓を名乗っていたが文明七年(1475年)小川貞守が緒川本城、刈谷砦を築城、西三河の勢力を拡大して水野姓に改姓する。水野の名は、緒川水野氏の祖小川清房が京都西嵯峨野水野邑里長に在住していたことに由来する。
水野氏は天保の改革を行った水野忠邦など多くの人物を輩出している。菊間水野氏(千葉県市原市)、幡随院長兵衛の仇役の水野十郎左衛門も祖先を同じとする。
鶴牧藩は忠韶(ただてる)、忠実(ただみつ)忠順(ただより)と3代45年間続いたが、明治の廃藩置県を迎えている。
鶴牧水野家は忠増が信濃松本城主水野氏より分家して、四代忠韶のとき安房北条から市原郡椎津村へ移封して鶴牧藩を立藩した。
忠実は善政をしき名君として家臣から大変尊敬をうけていた。
天保三年(1832年)には領主の転封すると聞いた村人が転封反対の村騒動を起こすなど、領民からも慕われていた。
忠順は学問を好み、藩校「修来館」で鶴牧版史記評林の発刊を行わせた。(資料館注:『鶴牧藩』をご覧下さい。)
また、明治政府は正貨鋳造を行ったがその品質が悪く、諸藩もこれに倣い悪質な貨幣が市場に出回り、外国貿易の決済に多く用いられていた。これを憂いた忠順は外国貿易に関する建言を行った。
建言
今般各国ヨリ申立ル件々ハ、我悪徳金銀彼ノ渡ル事莫大ナリシヨリ 政府ノ証明ヲ得テ事ヲ計ラントス 比答ヲ失スレハ国辱ハ云ウニ及ハス 終ニ大害ヲ醸ン事必セリ 旦彼ヨリ一時ニ悪金ヲ引換ン事ヲ要スレハ之ニ応スルノ換幣ヲ得ス 然トイエトモ比侭年月ヲ経ル時ハ 従テ増加スルノミナラス 彼ヨリ種々論説ヲ発スヘシ 故ニ迅速其処置ヲ施サスンハアルヘカラス 依テハ彼悪金ヲ以悉皆一時ニ引取換金ノ事ハ其期ヲ定メ置上下共ニ力ヲ竭シ 皇国ノ大恥辱ヲ雪ントノ赤心ヲ顕ハサハ 必ス備償ノ精金銀労セスシテ出ン 之ヲ出スノ策ハ政府ノ機ニアリ 且各国ハ幣ノ形ヲ同フセハ 自ラ贋鋳ヲ生セス
比故ニ我幣モ彼ト同フシテ可ナリ 然レトモ我国ハ 金銀ノ産少ナクシテ各国多ケレハ 金銀幣ヲ以テ交ル事甚難シ 抑交易セント欲セハ 物品ヲ以物品ニ易ヘ 我幣彼ニ与ヘサレハ 自然国内ニ幣集ラン
比時ニ当リ備償ノ金ヲ出セシモノヘ返金アッテ然ラン
謹 議
鶴牧藩知事
水野従五位
己巳十月(注:明治二年)
忠順は明治二年鶴牧藩知事に任ぜられ、四年廃藩されるまでその職にあった。
鶴牧水野家の菩提寺は椎津『瑞安寺』であるが、戊辰戦争の折その資料は全て失われてしまった。
鶴牧藩藩邸鬼瓦

水野家の家紋『おもだか』入りの鬼瓦。
鶴牧藩藩邸に使われていたもの。
谷島一馬氏(島野 在住)蔵
水野家邸裏門
水野家の屋敷の裏門が今も残っている。
姉崎神社・神門の隣にある浜田惇(あつし)氏邸の門がそれである。
瓦は葺き替えたそうであるが、構えはそのままであり170年前の風格を残している。
略歴
- 水野忠政(?〜1543年)
- 四代緒川城主。於大の父。天文年間の頃、三河刈屋城主として松平氏に従う。
- 水野忠重(1541〜1600年)
- 忠政9男。1580年織田信長より旧領の三河刈屋を与えられる。本能寺の変後、家康、ついで秀吉に仕える。1590年伊勢神戸城四万石に移封。1594年三河刈屋に復す。1600年加賀江秀に暗殺される。
- 水野田忠清(1582〜1647年)
- 忠重3男。1602年徳川秀忠付きとして仕え、上野小幡1万石を給せられる。1616年父忠重以来の功を賞して三河刈屋2万石へ、その後たびたび加増され信濃松本7万石となる。
- 水野忠増(?〜1694年)
- 忠清4男。万治二年(1659年)分家(鶴牧水野家の祖)
- 水野忠位(1655〜1713年)
- 忠増長男。1694年父の遺領を継ぎ、大阪定番となり信濃・丹波・摂津1.2万石で立藩する。
- 水野忠定
- 享保十年(1725年)0.3万石加増され、安房北条へ移封。
- 水野忠見
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- 水野忠韶(?〜1828年)鶴牧藩初代
- 文政十年(1827年)市原郡椎津へ移封(鶴牧藩立藩)
- 水野忠実2代
- 酒井家からの養子。
西丸若年寄。善政をしき名君として尊敬される。
- 水野忠順3代
- 忠実次男。鶴牧版史記評林の発刊
明治二年廃藩置県により鶴牧藩知事となる。
- >水野忠陽
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水野家系図
(4代緒川城主)
忠政−−近守
l
l(5代)
l−信元−−忠重−−勝成−−勝後
l l l
l l l---成貞----成之(十郎右衛門)
l l 菊間藩
l−信近 l−忠清−−忠職−<<−−>>−−−忠誠−−忠敬
l l
l l 鶴牧藩
l l−忠増−−忠位−−忠定−−忠見−−忠韶−−忠実−−忠順−−忠陽
l
l−忠守(6代)
l
l−忠分−−分長(7代)
l
l−於大−−
略 l
l−竹千代(徳川家康)
l
松平弘忠−
市原教育委員会 「市原のあゆみ」