薬王寺・『算額』                       【市指定 有形民俗 昭和60年4月1日 不入斗60】
   算額とは、和算家が数学の難問を解き明かした喜びを、神仏に感謝をこめて奉納した額のことです。
薬王寺に奉納されている算額は寛政元年(1789)10月に鈴木丈介俊直が奉納したもので、現存している算額としては市内では唯一であり、県内でも最古の物です。

奉納者の鈴木丈介俊直は、不入斗一帯を開発した大庄屋で小鷹神社を祭主として祀った鈴木太良大夫の直系の子孫です。そして「関流石富法門人」と記されているように、和算中興の人・関孝和の流れを汲む和算を学んだようです。
額は縦41.5p、横82.3p、厚さ2.2pの杉の一枚板で、数学の問題と図形、及び解き方と答えが書かれています。


 
    図をクリックすると拡大します 
   
【額文】
今有如圖鉤股弦之内容小圓徑与中圓徑及大圓
半徑只云者鉤五百八十八寸股二千令一十六寸
二千一百寸問大中小各圓徑幾何。   

答曰
大圓半徑 三百四十三寸
中圓徑  五百令四寸
小圓徑  一百二十六寸 

術曰列鉤加入股得數内減弦余得中圓徑數折半
之名甲列股内減甲餘以鉤相乗之名乙自乗之名
丙列弦以乙相乗之倍之名丁列中圓徑以鉤冪相
乗之加入丁名戊折半之名巳自乗之名庚列弦冪
内減鉤冪餘名辛以丙相乗之得數以之減庚余除
平方見商數以之減巳余以辛除之得商大圓半徑
數列甲自乗之名子列鉤内減甲余名丑自乗之名
寅列子加入寅得數除平方見商數名卯内減甲餘
名辰以甲相乗之得數以丑除見商數名己列辰以
卯相乗之得數以丑除之見商數名午列辰以己相
乗之倍之爲實列己加入午得數爲法除實得商小
圓徑數合問
        関流石富法門人
寛政元年酉十月吉辰    鈴木丈介俊直


図形 図をクリックすると拡大します 算額文      説 明   [読み下し]:算額文にそのまま数値を代入したもの 
             《解答》:現代流の解答例


 【問題】
今有如圖鉤股弦之内容小圓徑与中圓徑及大圓
半徑只云者鉤五百八十八寸股二千令一十六寸
二千一百寸問大中小各圓徑幾何。   

答曰
大圓半徑 三百四十三寸
中圓徑  五百令四寸
小圓徑  一百二十六寸 
[読み下し]
今図の如く鉤股弦の内に小円径と中円径、及び大円半径を容るる有り。只云うは鉤五百八十八寸、股二千令一十六寸、弦二千一百寸。
大中小円径幾何かを問う。


答に曰く 大円半径  三百四十三寸
     中円径   五百令四寸
     小円径   一百二十六寸
 



△ABCとし中円の中心をX、半径をaとする。Xより辺AB,AC,BCに垂線を下しそれぞれの交点をD,H,Fとする。
△XDBと△XFBおよび△XDCと△XFCはそれぞれ合同(斜辺と他の一辺が等しい)
 【中円経を求める】
術曰列鉤加入股得數内減弦余得中圓徑數
        
 
[読み下し]
術曰く、鉤を列べ股を加え入れ、得た数の内より弦を減じ、余りは中円径を得る。
  → 中円形=鉤+股−弦=588+2016−2100=504

《解答》

△XDBと△XFBおよび△XDCと△XFCはそれぞれ合同であるから
@a+b=鉤、Aa+c=股、Bb+c=弦 となる
この三連連立方程式を解く
Aよりc=股−a
これをBに代入すると b=弦−股+aを得る。
これを@に代入すると  a+弦−股+a=

  ∴ 2a=鉤+股−弦=588+2016−2100=504(中円径















大円の中心をZ、半径をzとする。
Zより辺CBに垂線をおろし、交点をGとする。
△ABCと△CZGは相似である。

 
【大円半径を求める】
 
(中圓徑數)折半之名甲
列股内減甲餘以鉤相乗之名乙自乗之名丙
列弦以乙相乗之倍之名丁
列中圓徑以鉤冪相乗之加入丁名戊
折半之名巳
自乗之名庚
列弦冪内減鉤冪餘名辛
以丙相乗之得數以之減庚余除平方見商數以之減巳余以辛除之得商大圓半徑數

 [読み下し]
中円径の半分を甲と名付ける      
股を列べ甲を減じ余を鉤を以って相乗し之を乙と名付ける
之を自乗し丙と名付ける 
弦を列べ乙を以て相乗し之を倍し之を丁と名付ける 
中円径を列べ鉤を以て冪相乗し之に丁を加え入れ戊と名付ける 

以下続くが、大円半径が求まるか不明。
 

≪解答≫
(1)czの長さを求める
@△ABCと△CZGは相似であるから
三辺の比は cz:zg(=大円半径Z):cg=2100:588:2016 
cz=2100Z/588=25Z/7
(2)△ZXHについて
@zx=z+a=z+252
Axh=a=252
Bzh=ca−a−cz=2016−252−(25Z/7)=1764−(25Z/7)
C△ZXHは直角三角形なので
 zx2=xh2+zh2
 (z+252)2=2522+(1764−(25Z/7))2
展開すると
576Z2−642096Z+3111696×49=0 
両辺を144で割ると
4Z2−4459Z+1058841=0
2次方程式解の公式を当てはめると
Z=(4459±√(44592−4×4×1058841))/(2×4)
 =(4459±1715)/8
解1 Z=6174/8=771.5  ×有りえない
解2 Z=2744/8=343  ○大円半径

 























小円の中心をYとし、Yより辺ABに垂線を下し交点をEとする。
XDBと△YEBは相似である。
YEBの△XDBに対応するそれぞれの辺をa”,とする
【小円径を求める】

列甲自乗之名子

列鉤内減甲余名丑

自乗之名寅
列子加入寅得數除平方見商數名卯

内減甲餘名辰
以甲相乗之得數以丑除見商數名己
列辰以卯相乗之得數以丑除之見商數名午

列辰以己相乗之倍之爲實

列己加入午得數爲法
除實得商小圓徑數

合問。

[読み下し]

甲を列べ之を自乗し子と名付ける →2522=63504    子
鉤を列べ内より甲を減じ余を丑と名付ける
              →588−252=336   丑
之を自乗し寅と名付ける   
              →3362=112896   寅
子を列べ寅に加え入れ得た数を平方し除し商数を見て卯と名付ける
→6354+112896=176400 √176400=420  卯
内より甲を減じ余を辰と名付ける 
              →420−252=168  辰
甲を以て之を相乗し得た数を丑を以て除し商数を見て巳と名付ける
          → 168×252÷336=126  巳
辰を列べ卯を以て之を相乗し得た数を巳を以て之を除し商数を見て午と名付ける      → 168×420÷336=210  午
辰を列べ巳を以て之を相乗し之を倍し之を実と為す 
          →168×126×2=42336   実
巳を列べ午を加え入れ得た数を法と為す
              →126+210=336   法
実を除し商小円径数を得る  
            →42336÷336=126
問に合う            

≪解答≫
(1)fの長さを求め
@△XDBは三平方の定理からa2+b2=f2である 
∴f=√(a2+b2)=√(2522+(588−252)2)=420(卯)
(2)f”の長さを求める
@ f”=f−a−a”=420−252−a”=168(辰)−a” 
Aa:b:f=a”:b”:f”=252:336:420→a”:f”=252:420
 a”=252×f”/420
B Aを@に代入
 f”=168−a”=168−(252×f”/420) 
 展開すると
 f”=(168×420)÷(420+168)=105
(3)a”の長さを求める
 f”の長さを(2)Aに代入
 a” =252×f”÷420=252×105÷420=63
(4)小円径=a”×2=63×2=126

参考文献 『薬王寺の算額について』 亀子幾由氏 上総市原 第6・7号掲載
          『姉崎不思議発見の旅』 市原市商工会議所姉崎青年部まちつくり委員会 編集
          『いちはら文化財ガイド 歴史の旅人』 市原市教育委員会 発行